社員が競合で副業している・機密を漏らしている気がする|在職中の兼業・情報漏洩を確かめる順番と、やってはいけない監視
- 深夜のSNSに、見覚えのある図表が流れてきた
- なぜ「在職中の副業・漏洩」が、いま起きやすいのか
- あなたのケースは、副業か、漏洩か——重なるが別物の4類型
- 疑いのサイン——稼働・情報・対外接触の三面チェックリスト
- 副業規定・守秘義務・就業時間中の兼業——「考え方」だけ、正直に
- 探偵の調査でできること・できないこと——線を、正直に引く
- プライバシーの線引き——「従業員にも、私生活がある」
- 証拠は、どう残せば後で効くのか
- 処分の前に、固める順番——ここを逆にすると、全部ひっくり返る
- 絶対にやってはいけない監視——善意でやる人ほど、ここで会社を危うくする
- 費用は、何で決まるのか
- 依頼先を選ぶチェックリストと、社内で先にやること
- よくある質問
- 確かめたあと、あなたが選べる道
- 次に読む
深夜のSNSに、見覚えのある図表が流れてきた
夜、寝る前になんとなくスマホをいじっていた。フォローしているわけでもない、業界のアカウントがおすすめに出てくる。その一つを、指が止まった。投稿されている資料の、あの図表。配色、項目の並び、右下に入れる注釈の癖——これは、うちの資料じゃないか。
投稿主のプロフィールには、聞き覚えのない屋号と、「複業でこういう支援をしています」という一文。アイコンは横顔で顔は分からない。けれど、書いている内容も、使っている言い回しも、どこかであの社員を思わせる。まさか、と打ち消しながら、あなたはもう一度、投稿をスクロールし直している。
思い返せば、伏線はあった。ここ数か月、その社員の日中の稼働が、明らかに落ちている。会議での反応が鈍い。午前中は電話に出ない日がある。それでいて、退勤後や休日の動きだけは、やけに機敏だ。共有ドライブのファイルが、業務と関係のない時間帯にごっそり開かれた形跡もある。取引先から「御社の別のご担当者から似た提案をもらった」と、けげんそうに言われたこともあった。
一つひとつは、偶然で説明がつく。忙しかった、たまたまだ、勘違いだ。そうやって、あなたは何度も自分を納得させてきた。それでも消えないのは——会社の中身が、少しずつ外へ流れている感触です。副業なのか、情報の持ち出しなのか、その両方なのか。分からないまま、けれど確実に、何かが漏れている。
この記事は、その「漏れている感触」を抱えた経営者のための、実務ガイドです。在職中の社員が、競合で無断の副業をしている、あるいは会社の機密を外へ渡している——その疑いを、騒がず、確かめ、正しい順番で手を打つ。そのために必要なことを、一つずつ、あなたの側の立場で並べていきます。長い。だが、順番を間違えないためのものだから、必要なところだけでも読んでほしい。
なお先に一つ、断っておきます。副業規定に違反するか、守秘義務違反にあたるか、懲戒できるかといった「法的な当否」は、この記事では断定しません。 そこは社会保険労務士や弁護士の領域です。この記事が担うのは、その手前——事実をどう確かめ、どう証拠にし、専門家につなぐまでの実務です。
派手な話は、ない。在職中の副業・漏洩への対応は、感情ではなく順番の問題だ。落ち着いて、進めよう。
なぜ「在職中の副業・漏洩」が、いま起きやすいのか
「うちの社員に限って」と思いたい。その気持ちは分かる。だが、現場を見ていると、いまの働き方そのものに、在職中の副業と情報漏洩を起こしやすい条件が、いくつも重なっている。相手を責める前に、何が起きているのかを冷静に押さえておくと、確かめ方も見えてくる。
第一に、副業の一般化だ。副業を認める会社が増え、「働き方の自由」という空気が広がった。それ自体は悪いことではない。問題は、その空気に紛れて、会社に無断の・しかも競合での兼業が、罪悪感なく始まってしまう土壌ができたことにある。本人の中では「みんなやっている」で正当化されている。
第二に、リモートと成果主義が作る「見えない時間」。オフィスにいれば、誰が何時に何をしているかは、自然と目に入る。ところが在宅やハイブリッドの働き方では、日中の数時間が、上司の視界から完全に消える。その空白に、別の仕事が滑り込む。稼働が落ちているのに気づくのが遅れるのは、このためだ。
第三に、情報の持ち出しが、物理的に楽になったこと。かつては書類を持ち出すか、USBに落とすしかなかった。いまは、クラウドの共有リンクを一つ送る、私用アカウントに転送する、スクリーンショットを撮る——それだけで、会社の資料は外へ出る。段ボールを抱えて出ていく時代の「持ち出し」とは、まるで様相が違う。痕跡は残るが、その痕跡を読む仕組みを持っている中小企業は、まだ少ない。
第四に、「自分が作った」という当事者意識のねじれ。主力社員ほど、資料も顧客も「自分が育てた」という感覚を持ちやすい。その感覚が、「少しくらい自分の副業に使っても」「独立するとき持っていって当然」という理屈にすり替わる。悪人が持ち出すのではない。貢献してきた人ほど、この落とし穴に足を取られる。
こうした要因は、あなたの社員が特別に不誠実だから、というより、環境が持つ引力です。だからこそ、感情で吊るし上げるより、事実を確かめるほうが、会社を守ることにつながる。企業調査という営みの全体像を先に俯瞰したいなら、こちらから入るといい。→ 企業調査とは
あなたのケースは、副業か、漏洩か——重なるが別物の4類型
「副業」と「情報漏洩」は、頭の中では地続きになりがちだが、確かめ方も、後の打ち手も、実は違う。まず、自分のケースがどの型に近いかを見立ててほしい。ここを整理しておくと、あとで相談するときに話が早く、調査の精度も上がる。
① 競合での無断副業(労務の二重化)。 就業時間外や休日に、競合他社や近い業種の仕事を、会社に隠して請け負っている型。会社の資料を直接持ち出していなくても、業務で得た知見・人脈・稼働を、競合に振り向けていること自体が問題になりうる。日中の稼働低下は、疲労や関心の分散として表に出る。
② 独立・転職の準備としての持ち出し。 辞める前提で、顧客名簿・見積フォーマット・提案資料・ノウハウを、静かに私物側へ移している型。まだ副業として表に出ていなくても、退職と同時に持っていくための仕込みが進んでいる。取引先への「あいさつ回り」が、実は引き抜きの下準備だったというケースもある。
③ 純粋な情報漏洩(副業を伴わない)。 金銭目的で外部に情報を売る、私怨から流す、あるいは軽率にSNSや外部サービスへ載せてしまう——本人が副業をしているわけではないが、機密が外へ出ている型。加害の意図がある場合と、危機感のない「うっかり」の場合があり、確かめて初めて区別がつく。
④ 副業と漏洩が、地続きになっている型(いちばん多い相談)。 自分の副業に、会社の資料・顧客・ノウハウをそのまま流用している。冒頭のSNSの図表は、まさにこれだ。副業という表の顔と、漏洩という裏の実態が一体化しているため、片方だけ見ても全体像を取り違える。この型は、副業の実在と、情報流用の事実を、両輪で押さえる必要がある。
見立てのコツは一つ。「日中の稼働が落ちている」だけなら①か④、「情報が外に出ている痕跡が先に見えた」なら③か④、と当たりをつけること。どの型でも、確かめたいのは結局、「誰が・いつ・どこで・何を・どう外へ動かしたか」という具体的な事実だ。噂や印象ではなく、行動の記録。そこに、この後の話のすべてがかかっている。
疑いのサイン——稼働・情報・対外接触の三面チェックリスト
在職中の副業・漏洩は、「稼働」「情報」「対外接触」の三つの面に、変化として表れやすい。ただ並べても意味がないので、なぜそのサインが出るのかを添える。理由が分かると、思い込みと事実を切り分けやすくなる。
稼働の面——本業に、力が入らなくなる
- 日中の反応が鈍い、午前中に連絡がつかない時間がある … 別の仕事に時間か体力を割いている裏返し。夜と休日だけ機敏、という「ムラ」が鍵。
- 残業を急に断るようになった/逆に、意味の見えない居残りが増えた … 副業の時間を確保している、あるいは人目のない時間に社内で作業している。
- 有給・中抜けの取り方に、規則的なパターンが出てきた … 副業の打ち合わせや納品の周期と重なることがある。
情報の面——会社の中身が、外へ向かう
- 業務と関係のない時間帯に、共有ドライブや基幹システムへのアクセスが集中している … 持ち出しの仕込み。閲覧・ダウンロードのログに、ふだんと違う山ができる。
- 私用のメールアドレスやクラウドへ、ファイルを送った形跡がある … 情報を私物側へ移す典型動線。
- 印刷・スクリーンショット・USB接続が、担当外の資料にまで及んでいる … 「自分の仕事に必要」で説明がつかない範囲まで手が伸びている。
対外接触の面——顔と名前が、二つになる
- 会社と無関係の屋号・肩書で、SNSや名刺が存在する … 副業の「表の顔」。冒頭の図表のように、投稿物に自社資産が混じることがある。
- 取引先や見込み客から「別ルートで似た提案を受けた」と言われた … 顧客ごと横に流れているサイン。いちばん見過ごせない。
- 競合の関係者と、業務の必要が説明できない頻度で接触している … ②③④のいずれかが動いている可能性。
一つ二つなら、偶然かもしれない。けれど、「稼働」「情報」「対外接触」の三面にまたがって当てはまるなら、その引っかかりには、たぶん意味がある。ここで大切なのは、気づいたことを、気づかないふりで、静かに手元へ控えておくこと。日付とファイル名と時刻だけを、責めるためではなく記録としてメモしておく。動くのは、そのあとだ。
副業規定・守秘義務・就業時間中の兼業——「考え方」だけ、正直に
ここは、多くの経営者が真っ先に知りたがるところだ。だが同時に、この記事がいちばん慎重に扱うところでもある。理由は単純で、懲戒できるか・違反に問えるかは、就業規則の中身と個別事情で変わり、最終判断は社労士・弁護士の領域だからだ。断定はしない。判断の「物差し」だけを渡す。
まず、副業そのものは、いまや頭ごなしに禁止できる時代ではなくなっている。行政の方向性も、副業・兼業を一律に禁じるのではなく、一定のルールのもとで認める流れにある。だから論点は「副業をしたか」ではなく、「その副業が、会社との関係で問題になる性質のものか」に移る。ここを取り違えないでほしい。
問題になりやすいのは、ざっくり次のような場合だ。あくまで「争点になりうる観点」であって、結論ではない。
- 競業性——会社と競合する、あるいは近接する事業を、無断で行っている。会社の利益と正面からぶつかる。
- 職務専念義務との衝突——就業時間中に副業の作業をしている、本業の稼働・成果が明らかに損なわれている。
- 秘密保持義務違反——会社の営業秘密・顧客情報・ノウハウを、副業や外部で使っている、外へ渡している。
- 信頼関係の破壊——顧客の引き抜き、会社への背信にあたる行為が伴っている。
このうち、就業規則に副業や競業、守秘に関する定めがあるか、その文言がどうなっているかで、打てる手はまるで変わる。規定がなければ問えない、というほど単純ではないが、規定があるほうが会社の立場は明らかに強い。就業規則を引っぱり出して、副業・兼業・競業避止・秘密保持・懲戒事由の各条項を、まず自分の目で確認してほしい。
「では、うちのケースは懲戒できるのか」——その問いに、この記事は答えない。答えてはいけない。同じ副業でも、競業性の有無、就業時間との重なり、実害の大きさ、規定の整備状況で、結論は一件ずつ違う。だからこそ、事実を固めたうえで、社労士・弁護士に個別に相談する。順番は、事実が先、法的判断は後だ。就業規則違反として問えるかという論点そのものは、入口をこちらに整理してある。あわせて読んでおくといい。→ 従業員の副業・競業は就業規則違反で問えるか?
探偵の調査でできること・できないこと——線を、正直に引く
社内で手が届かない部分を、どう埋めるか。ここで第三者調査が選択肢になる。ただ、期待だけ膨らませても仕方がない。できることと、できないことの線を、正直に引いておく。手の内の細かい段取りは商売道具だから詳しくは書けないが、輪郭は知っておいてほしい。
できること——「外に出てからの、事実の記録」
社外に出た後の行動は、会社の中からは、まず確認できない。ここが第三者調査の主戦場だ。合法の範囲で、次のような事実を、客観的な記録として押さえられる。
- 就業時間外・休日に、実際に副業らしき活動をしているか、どこで・誰と・どの程度の頻度で動いているか
- 競合や特定の相手と、業務では説明のつかない接触をしていないか
- 「直行直帰」「外回り」と称する時間に、申告どおり動いているのか、別のことをしているのか(勤務実態の面は、こちらも参考になる → 従業員の勤務実態調査)
- 屋号・肩書で表に出ている副業の実在と、その内容
第三者調査の最大の価値は、この記録が利害から切り離された中立の立場でまとめられることにある。社内の人間が集めた記録は、どうしても「身内が都合よく作ったもの」と見られがちだ。外部の調査者が時系列でまとめた報告は、社内処分の場でも、その後に弁護士が動く場面でも、材料としての重みが違う。「そう思う」を、「こう記録されている」に変える——そこに、頼む意味がある。
できないこと——ここを隠す業者は、危ない
正直に言う。何でもできるわけではない。むしろ、「何でもやります」と請け負う相手ほど、あなたの会社を危険にさらす。まっとうな調査は、次のことをやらない。
- 他人の私用アカウント・端末への不正アクセス(メール、SNS、クラウドの中身を無断で覗く)——法に触れる。得た情報は証拠にならない。
- 無断でのGPS取り付けによる位置情報の取得——規制の対象だ。
- 盗聴・盗撮による会話や画面の記録——違法であり、会社側の責任問題になる。
- 対象を罠にはめる「おとり」的な工作や、私生活への過剰な監視——正当な目的と必要な範囲を超えれば、それ自体が問題になる。
そして、もう一つ。調査は成果を保証するものではない。相手の動き方や状況によっては、はっきりした事実を押さえきれないこともある。「必ず証拠が取れる」と断言する相手は、かえって疑ってかかったほうがいい。合法に・正当な目的で・必要な範囲だけを守るからこそ、その記録は後で効く。ここは、社内不正全般の調べ方とも共通する話なので、順番の考え方はこちらにも詳しい。→ 社内不正・横領は自社で調べられる?
プライバシーの線引き——「従業員にも、私生活がある」
もう一歩、踏み込んでおく。調べる側が忘れがちなのは、従業員にも、守られるべき私生活とプライバシーがあるという当たり前だ。ここを軽く見ると、確かめたかったはずの副業・漏洩より先に、会社自身が「行き過ぎた監視をした側」として問われる。
線の引き方は、そう難しくない。「会社の正当な利益を守るために、必要で、相当な範囲か」——この物差しで測る。就業時間外・休日の副業の有無を、合法の手段で外形的に確認するのは、正当な目的に沿う。一方で、本人の私的な交友や趣味、家庭の事情にまで踏み込むのは、目的から外れる。目的は副業・漏洩の確認であって、身辺を丸裸にすることではない。
情報漏洩のルートとして、社内の会話や打ち合わせが外へ抜けている感触があるなら、それは別の切り口になる。会議室や役員室に細工がないか、という不安は、専門の調査(TSCM)の領域だ。ただしこれも、「まず自分で探す」は悪手という共通の作法がある。気配を悟らせず、専門家に委ねる。→ 会社・事務所の盗聴が不安
要は、「事実さえ分かればいい」ではなく、「どう調べたか」まで問われる。ここが、在職中の社員を調べることの、いちばん神経を使うところだ。だからこそ、社内の素人判断で走らず、線を引ける専門家と組む。
証拠は、どう残せば後で効くのか
苦労して事実をつかんでも、残し方を間違えると、いざというとき崩れる。「証拠」と一口に言っても、後で効くものには、いくつかの条件がある。
第一に、客観性。 「あの社員はサボっている気がする」という印象は、証拠ではない。「何月何日の何時、どこで、誰と、どういう行動をしていたか」という、時系列の事実。ここまで具体化して、初めて材料になる。
第二に、中立性。 誰が残したかが問われる。利害のある社内の人間が一人で集めた記録より、第三者が中立の立場でまとめた報告のほうが、説得力を持つ。社内で押さえる分(アクセスログ、勤怠、経費、共有ドライブの履歴など)と、外の事実とを突き合わせると、輪郭がはっきりする。
第三に、取得の適法性。 前の章のとおり、違法な手段で得たものは、証拠として使えないばかりか、会社の責任問題になる。適法に取れているかは、証拠の「強さ」以前の、大前提だ。
第四に、改ざんされない形。 ログやデータは、いつ・誰が取得したかが分かる形で保全しておく。社内で証拠を扱うなら、原本に手を加えず、取得の経緯を記録として残す。ここは、後で弁護士が動くときに効いてくる。
そして、証拠は、晒すためのものではない。手に入れた事実をSNSで暴露したり、本人に突きつけて脅す材料にしたりすれば、今度はあなたの側が加害者になる。証拠は、しかるべき手続きの場に「渡す」ためのものだ。この作法は、個人の調査でも法人の調査でも変わらない。→ 探偵調査の証拠は「晒すな、渡せ」
処分の前に、固める順番——ここを逆にすると、全部ひっくり返る
ここが、この記事でいちばん伝えたいところだ。在職中の副業・漏洩への対応は、順番がすべてだと言っていい。多くの会社が、良かれと思って、あるいは我慢できずに、順番を逆にして失敗する。
正しい順番は、こうだ。
1. 疑いの段階では、騒がない。 表向きの状況を、できるだけ変えない。担当を急に外す、権限をいきなり絞る、といった「合図」を出さない。相手が警戒した瞬間から、事実は遠ざかる。
2. 社内で押さえられる事実を、静かに保全する。 アクセスログ、勤怠、経費、共有ドライブの履歴、取引先からの声。原本に手を加えず、日付と経緯を記録として残す。ここは、あなたの手で今日からできる。
3. 外の事実は、第三者調査で客観的に固める。 社外に出てからの副業・接触・情報の動きは、合法の範囲で、中立の記録として押さえる。社内の材料と、外の事実がつながって、初めて全体像になる。
4. 事実がそろってから、社労士・弁護士に相談する。 懲戒処分が妥当か、競業避止や守秘義務違反として問えるか、損害賠償や差止めの余地があるか——ここは専門家の判断だ。事実を固めてから、法的判断を仰ぐ。この順を、絶対に逆にしない。
5. 専門家と設計した手順で、対処に動く。 処分、警告、示談、法的手続き。どれを選ぶにせよ、根拠となる事実が固まっているほど、話の重みが変わる。
なぜ、この順番なのか。先に本人を問い詰めれば、相手は否認し、証拠を消し、口裏を合わせ、場合によっては「不当な扱いを受けた」と逆に主張してくる。証拠が薄いまま重い処分に踏み切れば、後から「不当解雇だ」と争われ、処分そのものが覆る。真実を確かめたかっただけなのに、気づけば自分の側が守勢に回っている——この転落は、順番を逆にした瞬間に始まる。
遠回りに見えて、静かに事実を固めることが、いちばんの近道だ。もし相手がすでに退職・独立の動きを見せていて、持ち出した資産や本人の所在を追う必要が出てきたなら、そこは別の切り口になる。→ 横領した社員の財産・所在調査
絶対にやってはいけない監視——善意でやる人ほど、ここで会社を危うくする
疑いを持った経営者が、真実を知りたい一心で、踏み込んでしまいがちなことがある。そのほとんどが、事態を悪化させる。はっきり言う。次のことは、やらないでほしい。
① 本人のメール・SNS・私用スマホを、無断で覗く。 通信の秘密やプライバシーの侵害にあたるおそれがある。私用端末への不正アクセスは、法に触れる可能性がある。そして、そうやって見つけたものは、証拠として使いにくい。
② 私用のロッカー・カバン・私物PCを、本人の承諾なく検査する。 行き過ぎれば、プライバシー侵害だ。「会社の情報が入っているかもしれない」という理由でも、無断の私物検査は別問題になる。
③ 監視アプリ・追跡ソフトを、本人に無断で仕込む。 私用端末はもちろん、会社貸与の端末であっても、無断・過剰な監視は問題になりうる。監視を入れるなら、目的・範囲・本人への周知を、専門家と設計してからだ。
④ 車や持ち物に、無断でGPSを付ける。 承諾のない位置情報の取得や機器の取り付けは、規制の対象だ。そうやって得た情報は、あなたを守らない。むしろ立場を弱くする。
⑤ 本人を、証拠がそろう前に問い詰める。 いちばん多い失敗がこれだ。「はっきりさせたい」で呼び出しても、否認・証拠隠滅・口裏合わせ・逆ギレを招くだけ。言葉で問い詰めるより、事実で外堀を埋める。 順番を、逆にしない。
⑥ 疑いを、社内で口にする。 たとえ信頼する幹部相手でも、「あの人、副業してないか」と漏らせば、噂は思った以上の速さで広がる。当人の耳に入れば、問い詰めと同じ結果になる。調査の事実が漏れた時点で、対象は身構えると考えておく。
この六つに共通するのは一点。「あなたが動いたことが相手に伝わると、証拠が消え、今度は会社が責められる」。気づいたことは気づかないふりをして、静かに手元へ置く。それが、あなたの望む結末を守る。個人が自分で確かめようとして失敗する構図と、根っこは同じだ。線引きの具体例は、こちらが参考になる。→ 探偵に頼めること・頼めないこととは?
費用は、何で決まるのか
在職中の副業・漏洩の調査で、多くの経営者が気にするのが費用だ。金額そのものは事務所ごとに大きく違うから、必ず各社の見積もりで確認してほしい。ここで渡すのは、「何で費用が上下するか」と、「どう抑えるか」の考え方だ。
費用を左右する主な要素は、次のあたりになる。
- 投入する調査員の人数と拘束時間。 尾行・行動確認は一人では成立しにくく、複数体制が基本。動く時間が長いほど、費用は上がる。
- 対象の動きの読みやすさ。 副業や接触に規則的なパターンがあれば、少ない日数で押さえられる。用心深く不規則だと、日数がかさむ。
- 必要な事実の「重さ」。 社内で警告して区切りたいのか、懲戒や法的手続きまで見据えるのかで、必要な記録の量と日数が変わる。
- 調査の範囲。 副業の実在だけを確認するのか、情報の流出ルートや接触相手まで押さえるのかで、規模が変わる。
抑える工夫は、大きく三つ。第一に、動く日を絞る。 稼働が落ちる曜日、退勤後の動き、休日のパターンを、あなたの手元の記録から見立てておけば、当てもなく張り込む日を減らせる。第二に、社内でできる保全を先に済ませておく。 アクセスログや勤怠、取引先の声を整理しておけば、調査の初動が速くなり、外の調査に絞れる。第三に、「とりあえず長く」ではなく、必要な事実の重さから逆算する。 目的に対して過不足のない設計を、見積もりの段階で相談する。契約前に確認すべき点は、こちらにまとめてある。→ 探偵の契約書は「成功報酬の定義」と「追加料金」だけ先に読め
依頼先を選ぶチェックリストと、社内で先にやること
最後に、二つのリストを置く。一つは、社内で先にやっておくこと。もう一つは、外部に頼むなら依頼先をどう見極めるか。
社内で、先にやっておくこと
- 就業規則を確認する(副業・兼業・競業避止・秘密保持・懲戒事由の各条項)
- アクセスログ・勤怠・経費・共有ドライブの履歴を、原本に手を加えず保全する
- 取引先からの「別ルートで似た提案を受けた」等の声を、日付とともに記録する
- 気づいたことを、社内で口外しない(相手に合図を出さない)
- 相談できる社労士・弁護士のあてを、先に確保しておく
依頼先を、見極めるチェックリスト
- 探偵業の届出をしているか(届出番号を確認できるか)。営業所ごとに公安委員会への届出が義務づけられている。最初の目印だ。→ 探偵業の届出番号とは?見方と、番号を掲げない業者を最初に外す理由
- 契約を書面で交わし、重要事項を説明するか。 口約束で始める相手は避ける。
- 料金体系が明確か(内訳・追加料金の条件と上限を、はっきり説明するか)。
- 調査の目的と適法性を、こちらに確認してくるか。 何でも引き受けず、違法・過剰な手段には線を引けるか。
- 法人対応・秘密保持の体制があるか。 社内の機微な情報を扱う。情報管理と守秘は必須だ。
- 弁護士・社労士と連携できるか。 調査のあとの処分・請求・手続きまで見据えているか。
- 成果を安請け合いしないか。 「必ず証拠が取れる」と断言する相手は、かえって注意だ。
覚えておいてほしいのは、「何でも引き受ける依頼先ほど、危ない」ということ。違法な手段を平気で請け負う相手は、いずれあなたの会社をリスクにさらす。きちんと断れる依頼先こそ、信頼できる。ここは、法人対応の現場で一貫して言える。
よくある質問
Q. 会社貸与のPCやスマホなら、中身を自由に見ていいのでは?
会社の所有物であっても、そこに私的な通信や情報が含まれる以上、無断で中身を全部見ることには慎重さが求められます。就業規則やモニタリングの周知の有無で、扱える範囲が変わる。「会社のものだから何でも見ていい」とは限らないので、進める前に社労士・弁護士に確認を。
Q. 副業しているのは分かった。すぐ懲戒解雇できますか?
そこは、この記事では断定しません。副業の競業性、就業時間との重なり、実害、就業規則の整備状況で、結論は一件ずつ違う。事実を固めてから、弁護士・社労士に個別に相談する。証拠が薄いまま重い処分に走ると、不当解雇として覆るリスクがある。
Q. まだ副業の「準備」段階で、実害は出ていません。それでも調べる意味は?
ある。持ち出しの仕込みや接触は、実害が出る前の段階でこそ、静かに進む。動きが表に出てからでは、証拠も顧客も、取り戻すのが難しくなる。早い段階で事実を押さえておくと、警告で止めるにせよ、手続きに進むにせよ、選べる手が広がる。
Q. 本人に「副業してる?」と、やんわり聞いてみるのはダメですか?
おすすめしません。やんわりでも、聞いた時点で相手は「調べられている」と察する。以降は警戒し、証拠を消す。確かめたいなら、聞くより先に、事実を固める。順番を逆にしないでください。
Q. 情報が外へ抜けているルートが、どうしても分かりません。
社内の会話や打ち合わせが漏れている感触があるなら、会議室・役員室に細工がないかという別の切り口が要る。ただし「まず自分で探す」は悪手だ。気配を悟らせず、専門の調査に委ねてください。→ 会社・事務所の盗聴が不安
Q. 何も出なかったら、費用のムダになりませんか?
「何も出ない」ことにも意味がある。疑いが晴れれば、あなたは安心してその社員に仕事を任せられる。その安心のための費用でもあるんです。動く日を絞り、社内の保全を先に済ませておけば、ムダは最小化できる。
確かめたあと、あなたが選べる道
事実がはっきりしたとき、あなたはどうしたいだろうか。大切なのは、確かめることと、これからどうするかを決めることは、別だということ。今すぐ、一つに絞る必要はない。
関係を立て直したいなら、事実を土台に、本人と向き合い直す出発点になる。競業性がなく、就業時間とも重なっていない副業なら、ルールを整えたうえで認める、という着地もありうる。そこは、規定の見直しも含めて専門家と設計する。
けじめをつけたいなら、警告・処分・法的手続きのどれを選ぶにせよ、固めた事実が支えになる。損害を回収したい・差し止めたいなら、弁護士と組んで進める。そのどの道でも、根拠となる事実が手元にあるほど、あなたは有利に選べる。
そのどれもが、正しい望みだ。まだ決められなくても、かまわない。まず事実を固め、望みは、そのあとで、あなたが選ぶ。 私たちは、あなたを問い詰める側ではなく、あなたが選んだどの道でも、その望みを叶える側に立ちます。
深夜に、社員のSNSを何度もスクロールし直す夜を、これ以上重ねないでください。まだ何も決めていない、という段階でも、状況を聞かせてもらうことから始められる。相談は、依頼を決めてからするものではなく、決めるために使ってもらうものです。
次に読む
- 副業を就業規則違反として問えるか知りたいなら → 従業員の副業・競業は就業規則違反で問えるか?
- 稼働の実態を確かめたいなら → 従業員の勤務実態調査
- 社内不正全般の調べ方・順番を押さえたいなら → 社内不正・横領は自社で調べられる?
- 持ち出した社員の財産・所在まで追う必要があるなら → 横領した社員の財産・所在調査
- 情報漏洩ルートに盗聴の不安があるなら → 会社・事務所の盗聴が不安
- 企業調査の全体像から入りたいなら → 企業調査とは
※本記事の冒頭・本文中の相談事例は、内容を一般化した描写であり、実在の個人・団体とは関係ありません。また本記事は一般的な説明であって、個別の法的助言ではありません。副業規定・守秘義務・懲戒処分の当否など、法的・労務的な判断は、必ず社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
まずは、話を聞かせてください
「まだ、依頼するかどうかもわからない」——その段階で構いません。
決めてから相談するものではなく、決められないから相談していい場所です。