大阪府公安委員会 第62260032号相談無料・秘密厳守 監修と運営
探偵の相談室Soudan Room 相談する
現場の手帖

3日張って、何も出なかった。──単身赴任の夫を、720キロ先まで追った調査の、全記録

読了目安 約10分2026.07.24

依頼が、いつも決定的な証拠から始まるわけじゃない。むしろ逆だ。手ぶらで、確信もなく、「気のせいかもしれないんですけど」と前置きして、人は相談室のドアを開ける。

この手帖は、noteに書いている物語とは、少し毛色が違う。あっちは、人間の情のほうを書く。こっちは、仕事のほうを書く。一件の調査が、相談から報告書を渡すまで、現場で実際にどう転がっていくのか。何を考え、何を張り、どこで空振り、どこで動くのか。——手の内には、明かせる線と、明かせない線がある。その、明かせるぎりぎりまで、書く。

今回は、遠方調査の話だ。依頼者の住まいから、720キロ。夫の、単身赴任先を追った。

「たぶん、気のせいです」の中身を、こっちは分解する

その奥さんが持ってきた材料は、正直、薄かった。

夫は、一年前から地方へ単身赴任している。月に一度、帰ってくる。電話は毎晩ある。声も、普通だ。浮気の証拠らしきものは、何ひとつ、握っていない。「だから、たぶん、気のせいなんです」。奥さんは、そう繰り返した。自分の勘を、自分でしきりに疑っていた。

でも、こっちは仕事だ。「気のせい」で片づけずに、その気のせいの中身を、一つずつ分解する。

奥さんが引っかかっていたのは、三つ。ひとつ、毎晩あった電話が、金曜と土曜の夜だけ、たまに繋がらない時間帯ができた。ふたつ、以前は月に一度きっちり帰ってきたのに、この二ヶ月、「仕事が立て込んで」と帰省が飛んだ。みっつ、赴任先へ様子を見に行くと言うと、「わざわざ来なくていい、こっちは何もない」と、やんわり止める。

一つひとつは、なんでもない。仕事が忙しい男の、当たり前の生活に見える。だが、三つが同じ時期から、同じ方向に揃った。これが、こっちには引っかかる。偶然は、こんなにきれいに、足並みを揃えない。 十四年、他人の生活のほころびを見てきて、それだけは、体に染みついている。

私は、奥さんに言った。「気のせいだと思います、とは言いません。ただ、こういう揃い方をするときは、確かめておいたほうがいい。外れていれば、それはそれで、あなたは安心して、また電話に出られる」。

奥さんは、少し黙って、それから、依頼を決めた。

720キロという距離を、どう設計するか

さて、ここからが、遠方調査の難しさだ。

対象は、720キロ先にいる。日帰りで張り込める距離じゃない。この時点で、調査の設計そのものが、近場の浮気調査とは、まるで別物になる。

まず、選択肢は二つあった。ひとつは、赴任先の地元の探偵社に、丸投げする。ひとつは、うちの人間が、現地に入る。——うちは、後者を選んだ。理由は、はっきりしている。依頼者の話を直に聞いた人間と、現地で追う人間が、別だと、勘所がずれる。 奥さんが「電話が繋がらないのは金曜と土曜の夜」と言った、その一言の重みを、現地の他人に、電話一本で正確には渡せない。だから、うちの調査員が、二人、現地へ飛んだ。

正直に、金の話もしておく。遠方調査は、近場より高い。当たり前だ。調査員の交通費、現地での宿泊費、移動の時間そのものが、稼働に乗ってくる。ここをぼかす業者は、信用しないほうがいい。うちは、見積もりの段階で、奥さんに、遠方ぶんの実費がどれだけ乗るかを、先に全部見せた。そのうえで、こう提案した。「やみくもに何日も張るのは、お互いのためになりません。奥さんが引っかかっている『金曜と土曜』に、賭けましょう」。

近場なら、当てもなく何日か張ることもできる。だが、720キロ先で、それをやると、費用が青天井になる。だからこそ、依頼者が握っている『日にちの読み』が、遠方調査では、金銭に直結する武器になる。 奥さんの「金曜と土曜」という感覚は、こっちにとって、いちばん高く買いたい情報だった。費用の考え方は、この一件に限らず、動く前に一度は目を通しておいてほしい。→ 浮気調査の費用は結局いくら?料金体系・内訳・相場と、賢く抑えるコツ

現地に入って、最初の三日間。何も、出なかった

金曜の朝、うちの二人は、赴任先の社宅の見える場所に、入った。

最初にやるのは、追うことじゃない。知ることだ。 対象が、朝何時に出て、どの道を通って、どこで昼を食い、何時に帰るか。単身赴任者の平日の動線を、まず二日かけて、頭に叩き込む。これをやらずに、いきなり週末の尾行に入ると、対象が少し予定を変えただけで、あっさり見失う。720キロ先で見失ったら、その日の交通費と宿泊費が、まるまる無駄になる。だから、地味な下ごしらえに、時間を惜しまない。

一日目の金曜、夜。奥さんが「繋がらない」と言っていた時間帯。対象は——社宅に、まっすぐ帰った。電気がつき、カーテンが閉まり、それきり、動かなかった。

二日目の土曜。この日も、対象は外に出なかった。近所のスーパーへ、一人で買い物に行っただけ。あとは、部屋にこもっている。

正直に書く。この二日間、うちの調査員から入ってくる報告は、「動きなし」だった。私は、事務所で、その報告を受けながら、依頼者にどう伝えるかを、考えていた。「今のところ、何も出ていません」という報告は、いちばん、書く手が重い。 依頼者は、それを聞いて、ほっとする気持ちと、費用だけがかさんでいく不安の、両方を抱えることになる。奥さんに電話で正直に伝えると、「やっぱり、気のせいだったんですかね……」と、少し、笑った。その笑いには、安堵と、落胆と、自分への恥ずかしさが、全部、混ざっていた。

三日目の日曜。対象は、月曜からの仕事に備えてか、一日、部屋にいた。

三日、張って、何も出ない。ここで撤収する探偵も、いる。だが、私は、奥さんの「三つの揃い方」を、まだ信じていた。そして、もう一つ、引っかかることがあった。あまりにも、きれいすぎる。 単身赴任の男の週末が、三日連続で、これほど清く正しいのは、逆に、こなれている。慣れた人間ほど、調査が入りそうな最初の数日を、じっと動かずにやり過ごす勘が働くことがある。——考えすぎかもしれない。でも、こっちは、その考えすぎで飯を食っている。

私は、奥さんに、もう一週、粘らせてほしいと頼んだ。奥さんは、迷って、「お願いします」と言った。

四日目の、たった十五分

翌週の、金曜。

対象は、いつもより三十分早く、会社を出た。この時点で、うちの調査員から「様子が違います」と連絡が入った。長く現場をやっていると、対象の歩き方の速さで、その日の空気が読める。この日の対象は、明らかに、足が浮いていた。

対象は、社宅には帰らなかった。駅前で、一人の女と、落ち合った。

ここが、遠方調査の、いちばん神経を使うところだ。近場なら、複数の調査員で、車と徒歩を分けて、幾重にも網を張れる。だが、二人で飛んでいる現地では、人数が限られる。一人が対象を追い、一人が先回りする。この呼吸が、少しでもずれると、見失う。うちの二人は、駅の構造を、二日間の下調べで頭に入れていた。だから、対象と女が改札を抜けた瞬間、一人が正面から、一人が反対側の出口から、挟むように動けた。あの二日間の、退屈な下ごしらえが、この十五分のために、あった。

二人が入っていったのは、駅から少し離れた、シティホテル。時刻は、夕方だった。

ここまでで、奥さんの勘は、当たっていた。だが——この時点では、まだ、証拠として弱い。 「二人でホテルに入った」だけでは、「知人と、食事をしに、ホテルのレストランへ行っただけ」と、いくらでも言い逃れができる。ここで喜んで撤収するのが、素人と、報告書一枚で仕事を終わらせる悪い業者だ。本当の仕事は、ここから始まる。

「使える証拠」にするまでの、残りの数日

証拠には、水準がある。

ただ「怪しい」を確認するだけなら、あの日の写真で足りる。だが、奥さんが、この先、対等に話し合うにせよ、けじめをつけるにせよ、相手に責任を問うにせよ——その、どの道を選んでも耐えられる証拠にするには、条件がある。

ひとつ。同一の相手と、宿泊や、長時間の滞在をともなう出入りが、日を変えて、繰り返し記録されていること。一度きりだと、「魔が差した」で逃げ道が残る。ふたつ。写っている人物が、対象本人だと、はっきり判別できること。顔が潰れた写真は、枚数があっても、効かない。みっつ。日時が、動かせない形で、記録に残っていること。

だから、うちは、あの一日で切り上げず、次の週末も、現地で張った。そして、同じ女と、同じホテルへ、また入るところを、押さえた。今度は、入るところと、数時間後に出てくるところ、その両方を、時刻とともに。——ここまで揃って、はじめて、「その場に居合わせただけ」では説明のつかない、継続した関係の記録になる。何が証拠になり、何がならないのかは、動く前に知っておいて損はない。→ 浮気の証拠になるもの・ならないもの|協議・慰謝料・裁判で必要な「重さ」の違い

相手の女が、どういう人物だったか。それも、奥さんは知りたがった。そこは、うちの女性調査員が、別の形で動いて、突き止めた。どうやって、は、書けない。それが、商売道具だ。ただ、一つだけ言うと——人は、自分の秘密を、いちばん打ち明けたい相手にこそ、警戒を解く。それ以上は、勘弁してほしい。

報告書を渡した日と、その先

数週間分の記録が、一冊の報告書になった。720キロを、何往復もした結果が、写真と、時刻と、行動の記録として、一冊に収まる。

報告の日、奥さんは、一枚ずつ、ゆっくりめくった。ホテルの写真のところで、指が、止まった。それから、最後まで見て、しばらく黙って、こう言った。「……確かめて、よかったです。気のせいにして、これからずっと、金曜の夜に電話に出続けるほうが、私には、無理でした」。

奥さんが、そのあと、どうしたか。やり直したのか、別れたのか、慰謝料を求めたのか。——それは、奥さんが決めることで、こっちが書くことじゃない。ひとつだけ言えるのは、事実を手にした人は、そこから先を、自分の足で、選べるようになる、ということだ。順番が、大事だ。先に「どうするか」を決めてから確かめるんじゃない。確かめて、事実がそろってから、どうするかを、自分で選ぶ。 どの選択も、正しい。まだ決まっていなくて、かまわない。決めるための、土台を、まず作る。その土台を作るのが、私たちの仕事だ。

単身赴任という距離は、浮気を隠しやすく、確かめにくい。だが、離れているからこそ、「会える日」が読めれば、調査は狙いを定められる。この一件の全体像と、あなた自身のケースへの当てはめ方は、こちらにまとめた。→ 単身赴任中の夫(妻)の浮気を確かめたい|サイン・相手の類型・確かめ方・費用・法律までの完全ガイド

そして、依頼を考える前に、一度、頭に入れておいてほしいことがある。この記録を読んで、「自分も赴任先へ行って、確かめてやろうか」と思った人がいるなら——それだけは、やめておいたほうがいい。素人が動くと、まず見失う。そして、一度でも気づかれたら、相手は警戒し、次からは、プロが追っても、証拠が取りにくくなる。あなたが動く前に、こちらも読んでみてほしい。→ 浮気調査を依頼する流れ

もし、あなたが今、「たぶん気のせいなんですけど」と、自分の勘を、自分で疑いながら、この記録を読んでいるなら。その勘は、案外、当たる。720キロ先でも、当たった。確かめるかどうかは、あなたが決めていい。ただ、一人で、金曜の夜の電話に、出続けなくていい。

K
川瀬 健調査歴14年・主任調査員

調査の現場をまとめる主任です。尾行・張り込みから報告書の作成まで、実際の調査に長く携わってきました。「できること」と「できないこと」を、正直にお伝えするのが信条です。

読んで、少し気持ちが動いたら。
相談は無料です。決めてからでなく、迷っているうちに話してくださって大丈夫です。

相談無料・秘密厳守/大阪府公安委員会 第62260032号