大阪府公安委員会 第62260032号相談無料・秘密厳守 監修と運営
探偵の相談室Soudan Room 相談する
現場の手帖

壁の中に、他人が住んでいた。──「話した予定を相手が知っている」怯えを、専門調査で確かめた記録

読了目安 約10分2026.07.24

相談室に入ってきたその人は、椅子に座る前に、まず部屋の四隅を見た。天井を見て、照明を見て、それからやっと腰を下ろした。癖じゃない。もう、どこで誰に聞かれているか分からない、という体になっている。そういう座り方を、私は何度も見てきた。

この手帖は、noteの読み物とは役割が違う。あっちでは、人の情のほうを書く。こっちで書くのは、仕事の中身だ。一件の依頼が、相談からどう転がり、現場で何を潰し、どこで決着するのか。手の内には、書ける線と書けない線がある。書けるぎりぎりまで、記す。

今回の相手は、人じゃない。壁の中に、誰かが置いていった「耳」だ。

怖いのは「盗聴」じゃなく、「筒抜け」だと気づいた瞬間

その人が話してくれた事実は、単純だった。

外で、友人と、来週どこへ行くという話をした。家族にも職場にも言っていない、その場かぎりの雑談だ。ところが数日後、ある人物から、その予定をぴたりと言い当てるような連絡が来た。一度なら、偶然で流せる。二度、三度と続いた。しかも、当てられるのは決まって、自宅にいるときか、車の中で電話した内容だった。

ここで大事なのは、本人が最初、これを「盗聴」だと思っていなかったことだ。「自分の考えすぎ」「たまたま」「誰かが漏らした」——そう自分に言い聞かせて、半年、耐えていた。相談に来たのは、耐えきれなくなったからじゃない。眠れなくなったからだ。 家の中で、声を出すのが怖い。夫婦の会話も、電話も、独り言さえも、誰かが聞いている前提で暮らす。それは、盗聴という言葉の響きよりも、ずっと重い。

私は、まず一つだけ確認した。「今日、うちに来ることは、誰かに話しましたか」。首を横に振った。よし、と思った。この調査で、いちばんやってはいけないのは、"調べる"という事実そのものを、相手に気づかせることだから。

電話をかける前に、こう伝える理由

依頼を受けると決める前に、私はいつも同じことを頼む。「今日から調査当日まで、家の中で、この件を、声に出して話さないでください」。

不便だ。家族にも説明したいだろう。でも、これには理由がある。もし本当に自宅に「耳」があるなら、こちらが動く相談をした瞬間、それは相手に筒抜けになる。仕掛けた人間は、こちらが探し始めると察したら、証拠を回収しにくる。 電源を切る、抜いて持ち去る、あるいは、しれっと元の場所に戻して知らんぷりをする。そうなれば、半年間おびえた事実は、宙に浮く。「気のせいだった」という、いちばん残酷な結論だけが残るんだ。

だから、依頼の相談は、家の外でやる。日程は、口頭で家の中に一切残さない。調査に入る日は、対象者――この件で「仕掛けた可能性がある人物」――が、確実に家に近づかない時間帯を選ぶ。ここまでを、動く前に組み上げる。地味だが、この段取りが調査の八割だ。派手な発見は、この静かな準備の上にしか乗らない。

自分で探そうとした人が、いちばん証拠を消す

依頼者の多くが、来る前に一度、自分で探している。スマホのアプリを入れてみた。ホームセンターで売っている小さな探知機を買ってみた。夜中に、家具の裏を懐中電灯で覗いてみた。——気持ちは、痛いほど分かる。だが、これがいちばん、まずい。

理由を、はっきり書く。

ひとつ。市販の簡易探知機は、鳴るべきものに鳴り、鳴るべきでないものにも鳴る。 家電、Wi-Fi、給湯器、スマホそのもの。素人が使うと、反応の山に埋もれて、本物の一点を見分けられない。「反応がなかったから、無い」と安心して、いちばん危ない結論を出してしまう。

ふたつ。探す音、探す気配は、残る。 相手が仕掛けたのが「耳」だけとは限らない。目、つまりカメラも一緒なら、あなたが必死に家探しする姿は、そのまま向こうのモニターに映る。「こいつは気づいた」と教えているようなものだ。

みっつ。素人が触ると、いちばん大事な"位置と状態"が消える。 どこに、どの向きで、どう配線され、どんな状態で動いていたか。それ自体が、後で「誰が」「いつ」仕掛けたかを詰めるための材料になる。引き抜いて机に置いた瞬間、その材料は死ぬ。犯人にたどり着く道が、自分の手で断たれる。

だから私は、来た人にこう言う。「もう、探さないでください。触らないでください。いつも通りに暮らして、あとは、こっちに渡してください」。この一言で、肩から力が抜ける人がいる。半年、一人で戦ってきたんだから、当然だ。

一部屋ずつ、潰していく

調査当日。専門的な発見調査――業界ではTSCMと呼ぶ――は、宝探しじゃない。しらみつぶしだ。

やり方の核心は書けない。書けば、次に仕掛ける側の教科書になる。だから、輪郭だけ記す。私たちは、家全体を、電気的に「聞き」、物理的に「見る」。目に見えない電波の側から攻める道具と、実際に物を一つずつ検分していく手と、その両方を同時に動かす。片方だけでは、必ず取りこぼす。電波を出さずに録りためる型の機器もあれば、コンセントの電気で半永久的に動き続ける型もある。だから、電波を追うだけでも、物を見るだけでも、片手落ちなんだ。

順番にも、意味がある。人がいちばん本音を漏らす場所から入る。玄関で予定を確認する人はいない。予定も、悩みも、夫婦の言い争いも、声が出るのは決まった部屋だ。仕掛ける側も、それを知っている。だから彼らは、「よく声が出る場所」の、「毎日使うのに、誰も疑わない物」を狙う。

一つの部屋に、平気で数時間かける。天井裏、コンセントの内側、家具の継ぎ目、日用品の中。「そこまで開けるのか」と、立ち会う依頼者が驚くところまで開ける。私たちの仕事は、「無いことの確認」まで含んでいる。「見つけた」で終わる仕事じゃない。「もう、他には無い」と言い切れて、はじめて依頼者は眠れる。 だから、一つ出たあとも、手は止めない。むしろ、一つ出たら、必ず二つ目を疑う。仕掛ける人間は、一つ見つかることまで計算に入れて、二重に置くことがあるからだ。専門的な発見調査が、素人の家探しと何が違うのか――その全体像は、こちらにまとめてある。→ 盗聴器・盗撮カメラのTSCM専門調査とは|自分で探すのとの決定的な違い

それは、毎日その人が触る物の中にいた

見つかった場所は、書ける範囲でだけ言う。

生活の、ど真ん中だった。毎日必ず、その人の手が触れる。来客が来れば目に入る。なのに、誰一人、疑わない。そういう物の内側に、それは、収まっていた。外から見て、いつもと違うところは、何もなかった。ネジ一本、埃の積もり方まで、元通りに戻されていた。素人が偶然めくって見つけられる代物じゃない。プロが、道具と経験で「ここが不自然だ」と嗅ぎ分けて、はじめて分かる。

依頼者は、それを目の前にして、声を出さなかった。ただ、口に手を当てて、しばらく動かなかった。半年間の「気のせいかもしれない」が、その一点で、崩れた瞬間だった。安堵と、怒りと、寒気が、いっぺんに来る。「見つかってよかった」と「見つかってしまった」が、同時に襲ってくる。 その表情を、私は正面から受け止める。ここで、こっちが動揺したら、依頼者はもっと不安になる。だから淡々と、次の手順に移る。

見つけた。ここからが、本当の仕事だ

素人と、悪い業者は、見つけた瞬間に引き抜いて、「はい、ありました、駆除完了です」で終わらせる。これが、いちばん罪深い。

なぜなら、引き抜いた瞬間に、「誰が仕掛けたか」を突き止める道が、半分閉じるからだ。

だから、まずやるのは、記録だ。どこに、どの向きで、どう固定され、どこから電気を取り、どんな状態で「生きて」いたか。取り外す前の姿を、動かせない形で残す。この記録が、後々、決定的な意味を持つ。「いつ」「どういう手口で」仕掛けられたかが読めれば、家に出入りできた人間、それを扱える人間は、ぐっと絞られる。物そのものにも、たどれる線が残っていることがある。どこで手に入れられ、どう設定されたか。そこから人へ、糸を手繰る。手法は書けない。それが商売道具だ。

そして、依頼者本人には、この段階で、絶対に自分から相手を問い詰めないよう、きつく止める。証拠が固まる前に「あなたでしょう」とぶつければ、相手は全部を否定し、証拠を隠し、次はもっと巧妙になる。順番を、絶対に間違えてはいけない。先に問い詰めるんじゃない。先に、動かぬところまで固める。それから、どうするかを選ぶ。 見つけたあと、何を、どの順で進めるべきか――その道筋は、一度、頭に入れておいてほしい。→ 盗聴器・盗撮カメラを発見した後の正しい対応|触る前に、まずこれ

「誰が」へ、たどり着く

この件で、仕掛けた人間が誰だったか。結論だけ言う。その人の生活に、以前、深く入り込めた人物だった。 鍵を開けられた。留守を知っていた。声が出る部屋を知っていた。——赤の他人には、まず無理な条件だ。物の置かれ方、選ばれた場所、仕込まれた時期。それらを重ねていくと、家に上がれた人間の顔ぶれは、指で数えられるところまで絞れる。あとは、外から固めていく。誰がその条件を満たし、動機を持ち、機会があったか。ここは、私たちがいちばん時間をかけるところだ。

一つだけ、はっきり書いておく。もし調査の途中で、依頼者の身に危険が及ぶ気配――相手が逆上しそうだ、押しかけてくる、といった兆候――が出たら、私たちは調査より先に、警察への相談を勧める。プライドで抱え込む場面じゃない。命と、安全が先だ。ここは、譲らない。仕掛けた人間の特定を、どういう手順で、どこまで詰められるのか。その現実は、こちらに書いた。→ 盗聴器・盗撮を仕掛けた犯人を特定する方法|どこまで分かるのか

声を、取り戻すまで

すべてが終わった日、その人は、家の真ん中に立って、ふつうの声で、私に礼を言った。

半年ぶりだったそうだ。家の中で、聞かれる心配をせずに、ふつうの音量で喋ったのが。玄関で四隅を見てから座っていた人が、最後は、リビングの真ん中で、笑って喋っていた。私たちがやったのは、機械を一つ取り除いただけじゃない。その人から取り上げられていた、"家で自由に喋る"という当たり前を、返した。 それが、この仕事の、本当の成果だ。

その人が、仕掛けた相手をどうしたか。責任を問うたのか、縁を切ったのか、それとも別の道を選んだのか。——それは、その人が決めることで、私が書くことじゃない。ひとつだけ言えるのは、事実を手にした人は、そこから先を、自分の足で選べるようになる、ということだ。おびえながら耐えるのと、確かめてから決めるのとでは、立っている土台がまるで違う。

最後に、これを読んで「自分の家も、もしかして」と胸がざわついた人へ。その勘は、案外あなどれない。だが、その足で家具の裏を覗きに行くのは、今日はやめておけ。探すという行為そのものが、相手に気づかれる合図になり、消えるはずのない証拠を、あなたの手で消してしまう。まず、正しい見つけ方の基本を知ってからでいい。→ 盗聴器・盗撮カメラの見つけ方|素人が動く前に知っておくべきこと

家の中で、声をひそめて暮らす。そんな生活を、当たり前にしてはいけない。あなたの家は、あなたが自由に喋れる場所であるべきだ。それを取り戻す方法は、ちゃんとある。


※この記録は、実際の調査で扱う判断や段取りをもとに再構成した読み物です。特定の個人・事案が判別できないよう、状況・場所・人物などの具体は変えてあります。発見手法の核心は、悪用を防ぐため意図的に伏せています。

K
川瀬 健調査歴14年・主任調査員

調査の現場をまとめる主任です。尾行・張り込みから報告書の作成まで、実際の調査に長く携わってきました。「できること」と「できないこと」を、正直にお伝えするのが信条です。

読んで、少し気持ちが動いたら。
相談は無料です。決めてからでなく、迷っているうちに話してくださって大丈夫です。

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