尾行・張り込みは違法?──答えは「正規の調査手法、ただし越えてはいけない一線がある」
「人のあとをつけるなんて、法律的に大丈夫なの?」
探偵の調査と聞いて、多くの方が思い浮かべるのが、尾行や張り込みではないでしょうか。そして同時に、こんな疑問を抱きます。
「人を尾行するなんて、犯罪にならないのだろうか」
「近くで見張っていて、相手に気づかれたらどうなるのか」
「頼んだこちらも、あとで責任を問われたりしないだろうか」
テレビや映画のイメージもあって、尾行や張り込みには、どこか「後ろ暗い行為」の空気がまとわりついています。だからこそ、「これって本当に合法なの?」という不安を持つのは、ごく自然なことです。
結論を先に言えば——尾行や張り込みは、探偵業法にもとづく、正規の調査手法です。あやしい違法行為ではありません。ただし、これは「どんなやり方でもいい」という意味ではありません。手段や態様によっては、違法と評価されうる一線があります。
この記事では、尾行・張り込みがなぜ合法なのか、探偵がどんな手法で調べるのか、そして「ここを越えると違法になりうる」という境界がどこにあるのかを、順を追って整理します。
先に結論:正規の手法だが、「態様」によって一線を越えうる
先に、この記事の要点をまとめます。
- 尾行・張り込みは、探偵業法が想定する正規の調査手法です。 外から観察できる行動を、合法な手段で記録することは、認められた業務の範囲です。
- ただし「やり方(態様)」次第で違法になりえます。 つきまとい行為の規制に触れる、住居に侵入する、無断でGPSを取り付けるといった行為は、探偵であっても許されません。
- 目的の正当性も問われます。 相手を害する目的や、違法な目的での調査は認められません。
- 合法な範囲を守る事務所を選ぶことが、依頼者自身を守ります。
探偵業という制度全体は探偵業法とはで、探偵ができること・できないことは探偵にできること・できないことでくわしく扱っています。
1. なぜ尾行・張り込みは合法なのか——探偵業法の位置づけ
まず、尾行や張り込みが合法とされる根拠を見ておきましょう。
探偵業法(正式には「探偵業の業務の適正化に関する法律」)は、探偵の仕事を、大まかに言えば「特定の人の行動や所在について、面接での聞き取り・尾行・張り込みなどの方法で調べ、その結果を依頼者に伝えること」と定めています。
つまり、尾行や張り込みは、法律そのものが探偵の調査手法として想定している行為なのです。法律の枠組みのなかに、はっきりと位置づけられています。だからこそ、「探偵の尾行は、それ自体が犯罪」ということにはなりません。
ここで大切な考え方があります。尾行や張り込みで探偵が行っているのは、基本的に「外から観察できる行動を、記録すること」です。道を歩く、店に入る、誰かと会う——こうした、その気になれば周囲の人にも見える行動を、注意深く記録しているにすぎません。塀の外から見える行動を記録することと、塀の中に踏み込むことは、まったく別のことです。この「外から見える範囲かどうか」が、合法と違法を分ける、ひとつの大切な感覚になります。
2. 探偵の主な調査手法——尾行・張り込み・聞き込み
探偵が実際に用いる、代表的な調査手法を整理します。
尾行
尾行とは、対象者のあとを、気づかれないように追って、その行動を確認する手法です。どこへ行き、誰と会い、何をしているのか——対象者の行動の流れを、時間に沿って記録していきます。訓練を受けた調査員が、相手に不安を与えないよう、また周囲に迷惑をかけないよう、慎重に行うのが基本です。
張り込み
張り込みとは、自宅や職場などの近くで、対象者が動き出すのを待って観察する手法です。いつ出かけ、いつ戻るのか、誰が出入りするのか、といった動きを把握します。長時間に及ぶこともあり、周囲への配慮や、公共の場所でのマナーを守ることが求められます。
聞き込み
聞き込みとは、関係者などに話を聞いて、情報を集める手法です。ここでも、身分を偽って情報を引き出すようなことは許されません。あくまで正当な方法で、話してもらえる範囲の情報を集めるのが原則です。
これらの手法は、いずれも「合法な手段で、観察・確認できる情報を集める」という共通の枠のなかにあります。派手な機材やトリックではなく、地道で慎重な作業の積み重ねが、実際の調査の中心です。
3. 違法になりうる一線——ここを越えてはいけない
ここが、この記事でいちばん大切な部分です。尾行や張り込みが正規の手法だからといって、「何をしてもいい」わけではありません。やり方(態様)によっては、違法と評価されうる一線があります。探偵であっても、これを越えることはできません。
(1) つきまとい行為の規制に触れる態様
ストーカー規制法は、「つきまとい等」の行為を規制しています。尾行や張り込みも、その態様によっては、相手に不安を与えるつきまとい行為として評価されうる可能性があります。正当な調査は、相手に気づかれず、不安を与えないように慎重に行うのが原則です。相手を執拗に追い回したり、恐怖を感じさせたりするようなやり方は、正規の調査の範囲を越えるおそれがあります。ストーカー規制法やDVに関わる論点はストーカー・DVと探偵調査でも扱っています。
(2) 住居などへの侵入
外から観察できる範囲を越えて、他人の敷地や建物のなかに無断で立ち入ることは、住居侵入などにあたり、違法です。「塀の外から見える行動の記録」という原則を越えて、私的な空間に踏み込むことは許されません。
(3) 無断でのGPS取り付け・位置情報の取得
近年のストーカー規制法の改正により、承諾なくGPS機器を取り付けたり、その位置情報を取得したりする行為が、規制の対象となりました。相手が単独で使う車などへの無断設置は、違法と評価されるおそれがあります。GPSをめぐる論点は、慎重な扱いが必要です。
(4) 不正アクセス・監視アプリの無断インストール
他人のスマホやパソコンに、無断でログインしたり、監視アプリを仕込んだりする行為は、尾行・張り込みとは別の話ですが、あわせて知っておくべき違法行為です。不正アクセス禁止法などに触れるおそれがあります。
(5) 差別的な目的や、相手を害する目的での調査
出身や家柄を差別的な目的で調べること、相手に危害を加えるために居場所を突き止めることなどは、目的そのものが正当性を欠き、認められません。
これらの一線は、いずれも「相手の権利や安全を、不当に侵していないか」という共通の物差しで見ることができます。まともな探偵は、この物差しを常に意識しながら調査を進めます。
4. 依頼者が知っておきたい——「合法な範囲」を守る意味
ここまで読んで、「では、依頼する自分は何に気をつければいいのか」と思われたかもしれません。ポイントは2つです。
ひとつは、違法な手段を求めないことです。「気づかれてもいいから、とにかく張り付いてほしい」「GPSでもなんでも使ってほしい」——こうした要望は、探偵に一線を越えさせることになり、結果として依頼したあなた自身の責任問題にもつながりかねません。合法な範囲を守ることは、探偵のためだけでなく、あなたを守ることでもあります。この点は依頼すると違法になる?や違法な業者に頼むリスクもあわせてお読みください。
もうひとつは、合法な範囲を守る事務所を選ぶことです。相談の場で、無断GPSや不正アクセスといった手段を、当然のように勧めてくる事務所には注意が必要です。まともな事務所は、できることとできないことを正直に説明し、違法な手段には手を出しません。「なんでもできます」と安請け合いする相手ほど、かえって危ういものです。事務所選びの視点は探偵業者の選び方を参考にしてください。
5. よくある誤解を整理する
最後に、尾行・張り込みをめぐる、よくある誤解を整理しておきます。
- 「尾行はそれ自体が犯罪」ではない。 探偵業法が想定する正規の手法であり、合法な態様で行われる限り、犯罪ではありません。
- 「探偵なら何をしても合法」ではない。 探偵に、特別に許された「魔法の権限」はありません。違法な態様は、探偵がやっても違法です。
- 「証拠のためなら手段は問わない」ではない。 違法に集めた情報は、かえって価値が下がり、依頼者が不利になることもあります。報告書の証拠としての扱いは探偵の報告書は裁判の証拠になるのかをご覧ください。
この3つを押さえておけば、尾行・張り込みへの漠然とした不安は、ずいぶん整理されるはずです。
まとめ:合法な手法を、合法な範囲で
この記事の要点を、もう一度整理します。
- 尾行・張り込みは、探偵業法が想定する正規の調査手法であり、それ自体は違法ではない。
- 基本は「外から観察できる行動を、合法な手段で記録する」こと。
- ただし、つきまとい行為の規制・住居侵入・無断GPS・不正アクセス・差別や加害の目的といった一線を越えると、探偵であっても違法になりうる。
- 依頼者は、違法な手段を求めないこと、そして合法な範囲を守る事務所を選ぶことが大切。
尾行や張り込みは、正しく行われる限り、あやしい行為ではありません。大切なのは、合法な手法を、合法な範囲で、正当な目的のために使うことです。その一線を守る誠実な事務所を選べば、落ち着いて相談してよいはずです。焦らず、納得のいく相手を見極めていきましょう。
まずは、話を聞かせてください
「まだ、依頼するかどうかもわからない」——その段階で構いません。
決めてから相談するものではなく、決められないから相談していい場所です。