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競業避止義務違反の調査|元役員・元社員が同業を始めた疑いを、事実で確かめる方法

読了目安 約22分実務は主任調査員監修/法律部分は弁護士監修公開 2026.08.05

金庫から誓約書を出して、あなたは何度目かの問いを立てている

退職の日、あの人は深々と頭を下げた。「お世話になりました。これまでのことは、外では一切やりません」。あなたはその言葉を信じ、握手をして送り出した。手元には、退職時に交わした一枚の書面がある。競業避止義務の誓約書。同業を営まない、顧客に接触しない、在職中に知り得た情報を使わない——そう署名捺印した、あの紙だ。

それを、あなたはいま、金庫から出して机に広げている。読み返すのは、これで何度目だろう。

きっかけは、些細な違和感だった。長く付き合ってきた取引先が、更新のタイミングで「今回は見送りたい」と言ってきた。理由は歯切れが悪い。数週間して、別の顧客からも同じ話。担当営業が漏らした一言が、耳に残っている。「あそこ、○○さんのところに切り替えたらしいですよ」。○○——それは、半年前に辞めた、あの元幹部の名前だった。

調べるほどではない、と自分に言い聞かせてきた。偶然かもしれない。景気のせいかもしれない。でも、離れていく顧客の顔ぶれが、どれもあの人が在職中に担当していた先だと気づいたとき、あなたの中で何かが静かに固まった。これは、偶然ではない。

そして、いま、あなたが抱えているのは、たった一つの問いだ。この誓約書は、守られているのか。守られていないなら、私は何をどこまでできるのか。

この記事は、その問いの前に立ち尽くしているあなたのための、競業避止義務違反を「事実」で確かめるための実践ガイドです。感情論は書きません。誓約書の効き目の考え方、違反の実態をどう掴むか、どんな事実がそろえば法的に動けるのか、自分で追うことの危うさ、そして掴んだあとの道筋まで。長くなります。必要なところから、何度でも読み返してください。

「守られているのか」——あなたが直面している問題の正体

まず、いま起きていることの構造を、冷静に見ておく。ここを整理しないまま感情で動くと、足を踏み外す。

あなたが疑っているのは、ざっくり言えば次の三つのどれか、あるいは複数だ。

ひとつ、元役員・元社員が、退職後に同業を自分で始めている。 会社を立ち上げた、個人事業として動いている、あるいは競合他社に幹部として入った——形はさまざまだが、共通するのは「同じ土俵で商売をしている」こと。

ふたつ、あなたの顧客を、狙って奪っている。 それも、たまたまではなく、在職中に自分が担当し、関係を築いた先を選んで接触している。顧客名簿や取引条件を、頭の中に、あるいは持ち出した形で使っている疑いがある。

みっつ、在職中に知り得た情報を、武器にしている。 価格の決め方、原価、キーパーソン、契約の更新時期。それらは、あなたの会社が時間と金をかけて積み上げた財産だ。それを持ち出されれば、相手は最初から「あなたの手の内を知った状態」で勝負を仕掛けてくる。

この三つが重なると、被害は静かに、しかし確実に効いてくる。売上が削られるだけではない。築いてきた顧客との信頼、社内の士気、市場での立ち位置——目に見えにくいものから崩れていく。そして厄介なのは、相手が「元・信頼していた人間」だという点だ。裏切られた怒りが判断を曇らせ、冷静な一手を打ちにくくする。

だからこそ、順番を間違えないでほしい。まず、感情を脇に置いて、事実を固める。 誓約書が効くかどうかも、相手を止められるかどうかも、すべては「何が起きているか」を事実で掴んだ先にある。ここから、一つずつ解いていく。企業をめぐる調査の全体像を先に俯瞰したいなら、企業調査とは にまとめている。

誓約書は「あれば必ず勝てる」わけではない——有効性を左右するもの

ここは、多くの経営者が最初に誤解するところだ。はっきり書く。「競業避止の誓約書に署名させたから、違反すれば必ず止められる・賠償を取れる」——そう単純にはいかない。

なぜか。職業選択の自由という、憲法が保障する重い権利があるからだ。退職した人間が、どこで、どんな仕事をするか。それを縛る約束は、放っておけば「強い者が弱い者の食い扶持を奪う道具」になりかねない。だから、競業避止の約束が実際にどこまで効くかは、契約書に書いてあるかどうかだけでは決まらない。裁判所は、いくつもの要素を見て、その約束が有効か、有効だとしてどこまで及ぶかを判断する。

一般に、有効性を左右するとされる観点は、こういうものだ。あくまで「考え方の枠組み」として読んでほしい。

  • 守るべき正当な利益があるか。 会社の営業秘密、特別なノウハウ、独自に築いた顧客関係など、本当に保護に値するものがあるか。単に「競合が増えると困る」だけでは弱い。
  • その人の地位。 経営に深く関与した役員・幹部か、末端の一社員か。知り得た情報の質と量で、縛りの正当性は変わる。
  • 制限の範囲。 禁じる業種・地域・相手が、どこまで広いか。「同業一切」「全国」「無期限」のように広すぎると、無効に傾きやすい。
  • 期間。 退職後どれだけの期間を縛るか。長すぎる縛りは、認められにくい。
  • 代償の有無。 縛る見返りに、退職金の上乗せや特別な手当など、相応の代償を払っていたか。何の代償もなく一方的に縛る約束は、弱くなりがちだ。

つまり、あなたの手元の一枚が、法的にどこまで効くのか——それは、書面の文言・その人の地位・制限の広さ・期間・代償を、総合して判断されることになる。そして、この判断は素人がやるものではない。最終的な有効性の見立ては、必ず弁護士に確認してほしい。 この記事では「金額や勝敗を断言しない」。ここでできるのは、有効性を判断してもらうための「事実」を、あなたがそろえられるよう手伝うことだけだ。

ここで一つ、勇気の出る話もしておく。仮に誓約書の縛りが一部弱かったとしても、在職中に持ち出した営業秘密の不正な使用や、顧客名簿を使った悪質な引き抜きは、競業避止義務とは別の筋で問題にできる場合がある。だから「誓約書が万全じゃないから無理だ」と、入口であきらめる必要はない。どの筋で戦えるかは、事実がそろってから弁護士が組み立てる。あなたはまず、その材料を集める側に回ればいい。

違反を疑うサインは、「顧客・人・取引」の三方向に出る

競業避止義務違反は、ある日突然わかるものではない。たいてい、小さな異変の積み重なりとして表れる。ここでは、その異変を「顧客」「人」「取引」の三つの方向で整理する。当てはまるものに、心の中で印をつけながら読んでほしい。

顧客の方向に出るサイン

  • 特定の顧客が、明確な理由を言わずに、更新を見送る・取引を細らせる
  • 離れていく顧客が、その元社員が担当していた先に、偏っている
  • 「他社に切り替えた」と聞くが、その他社の正体がはっきりしない
  • こちらの見積もりの直後に、なぜか競合がぴたりと下回る金額を出してくる(価格情報の流出を疑う場面)

人の方向に出るサイン

  • 元役員・元社員が、退職後まもなく同業の会社を設立した、という噂が耳に入る
  • その人が、在職中の部下や、他の社員にも声をかけている気配がある(連鎖的な引き抜き)
  • 元取引先や協力会社から、「最近○○さんが挨拶に来た」という話が出る

取引の方向に出るサイン

  • こちらの独自の商流や仕入れ先に、元社員の新会社が食い込んでいる
  • 自社の資料・様式・提案フォーマットにそっくりなものが、相手方から出回っている
  • 在職中にしか知り得ないはずの内部情報を、相手が把握している節がある

一つ二つなら、偶然と言い張る余地もある。だが、三つの方向にまたがって当てはまるなら、その違和感には、たぶん実体がある。ここから先は「気のせい」で片づけず、事実で確かめる段階に入る。なお、まだ在職している社員の副業・競業を疑っている場合は、論点が少し変わる。そちらは 従業員の副業・競業は就業規則違反で問えるか? に整理してあるので、あわせて読んでほしい。

なぜ「疑い」から「事実」へ、自社だけでは進めないのか

サインが出そろっても、そこから先に、大きな壁がある。「同業を始めているらしい」という噂と、「同業を営み、うちの顧客に接触している」という事実の間には、深い谷がある。 この谷を、社内の人間の手だけで越えようとすると、たいてい足を踏み外す。理由は三つ。

ひとつ、相手はもう社内にいない。在職中なら、勤務実態や社内のやり取りから足取りを追えた。だが退職者は、あなたの管理の外にいる。日々どこで、誰と会い、どんな商売をしているか——それは会社の外に出て確かめるほかない。これは通常の社内業務では、現実的に不可能だ。

ふたつ、動けば、相手に伝わる。あなたが元社員に直接連絡を取れば、あるいは共通の知人を通じて探りを入れれば、その瞬間に相手は身構える。「調べられている」と察した相手は、証拠を隠し、口裏を合わせ、慎重に動くようになる。あなたが一歩踏み込んだことが、そのまま相手への警報になる。

みっつ、自社の人間が集めた記録は、後で弱い。社内で「あいつは怪しい」という話を集めても、それは利害のある側が作った材料と見られやすい。いざ法的に動く段になって、「身内が集めた、都合のいい話」では、力を持ちにくい。中立の第三者が、客観的な記録としてまとめてこそ、材料は使えるものになる。

この三つの壁を越えるために、外部の目——探偵による企業調査という選択肢がある。利害から切り離された立場で、社外に出て、相手の活動の実態を、後で使える記録として確かめる。そこに、第三者に頼む意味がある。

何を掴めば「違反」を立証できるのか——活動実態と顧客接触の事実

では、具体的に何を掴めばいいのか。ここが、この記事の核心だ。競業避止義務違反を「事実」として示すために要るのは、大きく二つ。① 同業を実際に営んでいる活動実態と、② 自社の顧客・情報への接触の事実だ。順に見る。

① 活動実態——「本当に、同じ商売をしているのか」

まず押さえるのは、その元社員が、看板や噂だけでなく、実際に事業として同業を動かしているかという点。確かめたいのは、たとえばこういうことだ。

  • 会社を設立しているなら、その実在と事業の実態(登記だけの空箱ではないか、実際に稼働しているか)
  • 事務所や活動拠点があるか。そこで、実際に人が動いているか
  • 誰と組んで、どんな商流で商売を回しているか
  • 前職と「同じ土俵」と言える事業内容か

登記や公開情報で確かめられることもあれば、外に出て実態を見なければわからないこともある。「紙の上では別業種を名乗っているが、中身は完全に同業」というケースは、実際にある。実態確認の考え方は、取引相手を見極める場面と共通する部分が多い。取引先の信用調査(与信)で見る6つのポイント の「実在性・事業実態」のくだりが、そのまま参考になる。

② 顧客接触・情報使用の事実——「うちの顧客を、狙って奪っているのか」

競業避止義務違反が「重い」ものになるかどうかは、ここで決まる。ただ同業を始めただけと、在職中の顧客に、在職中に得た情報を使って接触しているのとでは、意味がまるで違う。確かめたいのは——

  • 元社員が、あなたの顧客のもとへ、実際に足を運び・接触している事実
  • その相手が、その人が在職中に担当していた先であること
  • 接触が単発ではなく、複数の顧客にまたがって、継続していること
  • 在職中にしか知り得ない情報(価格・更新時期・キーパーソンなど)を、相手が使っている節

この「接触の事実」を、いつ・どこで・誰と、という形で押さえられるかどうか。ここが、後で弁護士が筋を組み立てるときの、いちばんの土台になる。

調査で押さえる事実の中身と、探偵に頼む意味

「じゃあ、どうやってそれを押さえるのか」——具体的な手口を、ここで細かく解説することはしない。尾行や張り込み、実態確認の詰め方は、私たちの商売道具だ。手の内を全部書けば、相手に対策される。 だから核心は濁す。ただ、依頼を考える人が「何が手に入るのか」をイメージできるよう、押さえられる事実の"種類"だけは示しておく。

  • 行動の記録:対象が、いつ・どこへ行き・誰と会い・どれくらいの時間を過ごしたか。合法の範囲で、公然の場所での行動を記録する。
  • 接触相手の確認:対象が接触している相手が、あなたの顧客と一致するかの確認。
  • 活動拠点・実態の確認:事務所や活動の拠点、稼働の様子。
  • 公開情報・登記の照合:誰でもアクセスできる情報を、正しい手続きで集め、突き合わせる。

これらを、一度きりの目撃ではなく、日を変えて反復して押さえる。ここが、後で効く記録にするための鍵になる。一回の目撃なら「たまたま挨拶しただけ」と言い逃れられても、複数の顧客への継続的な接触が時系列で記録されていれば、その言い訳は通らなくなる。

ここで、線引きも明確にしておく。まっとうな調査は、合法の範囲を絶対に越えない。 相手のスマホやパソコンへの不正アクセス、無断のGPS取り付け、盗聴——こうした手段で得た情報は、証拠として使えないばかりか、やった側が法に問われる。「不正を暴くためだった」は、違法な手段を正当化しない。何でも引き受ける業者ほど危ない。探偵にできること・できないことの境界は 探偵に頼めること・頼めないこと に、無届・悪質業者の見分け方は 悪質・無届の探偵業者を見分ける7つのサイン にまとめてある。依頼先を選ぶとき、まず確かめるのは 探偵業の届出があるか だ。→ 探偵業の届出番号の見方

証拠は「点」ではなく「線」で固める

競業避止義務違反の証拠で、いちばん大事な考え方がこれだ。単発の「点」ではなく、つながった「線」で押さえる。

なぜか。相手には、必ず言い訳の余地があるからだ。

  • 「昔の顧客に、たまたま街で会って挨拶しただけ」
  • 「向こうから連絡が来たから、応じただけ」
  • 「あの会社は、もともと自分と個人的な付き合いがあった」

一つの目撃だけなら、こうした言い訳が成り立ってしまう。だが——

  • 同じ顧客への接触が、日を変えて繰り返されている
  • 複数の顧客に、次々と接触している
  • その顧客が、いずれも在職中の担当先である
  • 接触の直後に、実際に取引が切り替わっている

これらが時系列でつながって初めて、「たまたま」では説明のつかない、意図的・継続的な競業行為の輪郭が浮かぶ。点を線にすること。それが、話し合いでも、差止でも、損害賠償でも、共通して効いてくる。

そして、押さえた事実は、時系列でまとまった調査報告書という形になる。この報告書が、あなたが次に進むどの道でも、土台になる。報告書がそのまま裁判の決め手になるわけではなく、集め方の適法性や事実の具体性で価値は変わる——その考え方は 探偵の報告書は裁判の証拠になるか に整理してある。過度な期待も、過小評価も、しないでほしい。

掴んだあと、どう動くか——差止・損害賠償への道筋

事実がそろったら、次は「どう使うか」だ。ここからは、完全に弁護士の領域になる。探偵は事実を固める役、弁護士が法で動かす役。この分担を、頭に入れておいてほしい。金額や勝敗は、この記事では一切断言しない。あくまで「こういう道筋がある」という地図として読んでほしい。

代表的な進め方は、こういう順になる。

1. 弁護士への相談と、方針の設計。 集めた事実(活動実態・顧客接触の記録・誓約書)を持って、弁護士に相談する。ここで、誓約書の有効性、どの筋で戦えるか(競業避止義務違反か、営業秘密の不正使用か、両方か)、どこまで求めるかの方針が固まる。

2. 警告・通知。 いきなり裁判ではなく、まず相手に「違反をやめること」を正式に求める通知を送る、という段階を踏むことが多い。これで相手が競業行為を止めれば、被害の拡大は止まる。

3. 差止の請求。 それでも止めないなら、競業行為そのものを止めるよう、法的に求める道がある。「これ以上、うちの顧客に接触するな」「同業の営業をやめろ」と、行為を止めにいく筋だ。被害が進行中の場面では、金銭よりまず「止める」ことが効く。

4. 損害賠償の請求。 違反によって被った損害の賠償を求める。奪われた取引、失った利益。ここで、どれだけの損害が、その違反によって生じたかを示せるかが問われる。だからこそ、前段の「接触と取引切り替えの因果」を、線でつないで記録しておくことが効いてくる。

5. 被害回復と、財産の押さえ。 賠償が認められても、相手に支払い能力がなければ絵に描いた餅になる。相手の資産の所在を確かめておくことが、実際の回収につながる。この局面の考え方は 横領した社員の財産・所在調査 と重なる部分が多い。犯した不正の種類は違っても、「賠償を取れる相手か・どこから回収するか」の発想は共通だ。

繰り返す。どの筋で、どこまで求めるかは、弁護士が事実を見て組み立てる。 あなたの仕事は、その組み立てに耐える「事実」を、先にそろえておくことだ。

自社だけで追うことの、3つの危険

「探偵に頼むほどか? 自分で確かめられないか?」——そう思う気持ちはわかる。だが、自力で踏み込むと、取り返しのつかない失敗をしやすい。特に危ないのが、次の三つだ。

① 相手に気づかれ、証拠が消える。 あなたや社員が、元社員に直接探りを入れる。共通の知人に「あいつ、何してる?」と聞く。それが巡り巡って、本人の耳に入る。あなたが動いた瞬間、相手は警戒し、接触の仕方を巧妙にし、証拠を残さなくなる。 せっかく読めていた行動パターンが、そこで途切れる。

② 違法な手段に、手を出してしまう。 怒りにまかせて、相手のスマホを覗こうとする、車にGPSを付けようとする、社内アカウントから情報を抜こうとする——気持ちはわかるが、これらはあなた自身が法に問われる行為だ。そうして得た情報は使えないどころか、立場を逆転させる。あなたが加害者になってしまう。ここは、絶対に踏み越えてはいけない一線だ。

③ 感情で先に動いて、手の内を見せる。 証拠がそろう前に、相手を呼び出して問い詰める。SNSや取引先に「あいつは裏切り者だ」と言いふらす。前者は相手に対策の時間を与え、後者は名誉毀損として、逆にあなたが訴えられる危険をつくる。事実を固める前の「制裁」は、自分の首を絞める。

この三つに共通するのは、「動いたことが相手に伝わると、状況が悪化する」という一点だ。気づいたことは、気づかないふりをする。静かに、事実を手元に集める。順番を、逆にしないでほしい。

動く前に、そろえておく情報リスト

相談や依頼を考えるなら、次の情報を先にメモしておくと、話が早く、調査の精度も上がる。完璧でなくていい。わかる範囲で書き出してみてほしい。

  • 元役員・元社員の氏名、退職時期、在職中の役職・担当業務
  • 交わした誓約書・契約書の現物(競業避止・秘密保持の条項があるもの)
  • その人が在職中に担当していた顧客の一覧
  • 離れていった顧客のリストと、離脱した時期
  • 元社員が設立した(とされる)会社の名称・所在地、わかれば登記情報
  • 元社員が使っている車のナンバー・車種・色、活動していそうな地域
  • 「怪しい」と感じた具体的なエピソード(誰が・いつ・何を見聞きしたか)
  • 価格や内部情報の流出を疑うなら、その具体的な状況のメモ

このリストは、そのまま「事実を固める準備」の設計図になる。特に、誓約書の現物担当顧客と離脱顧客の突き合わせは、弁護士が有効性と損害を見立てるうえでも、調査で狙いを定めるうえでも、最初に効いてくる。

費用は、何で決まり、どう抑えるか

費用は、当然いちばん気になるところだろう。金額そのものは事務所ごとに大きく異なるため、必ず各社の見積もりで確認してほしい。ここで伝えるのは、「何で費用が上下するか」「どう抑えるか」だ。

費用を左右する主な要素は——

  • 人が動く量:調査員の人数 × 稼働時間。行動の記録は一人では成立しにくく、複数体制が基本になる。追う日数が長いほど、ここが増える。
  • 対象の動きの読みやすさ:接触のパターンが読めれば少ない日数で済み、不規則で用心深いと日数がかさむ。
  • 確認すべき範囲:対象や顧客が広域に散っているほど、手間が乗る。西日本のように拠点から距離のある現場では、移動費が加わることもある。
  • 必要な証拠の"重さ":警告で止めたいのか、差止・損害賠償まで見据えるのかで、要る日数が変わる。

そのうえで、費用を賢く抑える工夫は、次の三つ。

① 目的を、最初に絞り込む。 「とりあえず広く」ではなく、「同業の実態確認だけ先に」「この顧客への接触を押さえたい」と、狙いを言葉にする。目的があいまいなまま広く動くと、費用ばかりかさんで、肝心の材料が薄くなる。

② 社内でわかっている情報を、先に渡す。 上の情報リストを埋めておくと、調査員が対象や顧客を特定する手間が減り、初動が速くなる。準備が、そのまま費用を抑える。

③ 必要な証拠の"重さ"から、逆算する。 目的に対して過不足のない日数を設計してもらう。見積もりは、内訳・追加料金の条件・その上限を、書面で確認する。まともな依頼先なら、この確認を嫌がることはない。

よくある質問

Q. 退職時に、誓約書を取っていませんでした。もう何もできませんか?

そうとは限りません。競業避止の誓約書がなくても、在職中に持ち出した営業秘密の不正な使用や、顧客名簿を使った悪質な引き抜きは、別の筋で問題にできる場合があります。どの筋で戦えるかは、事実がそろってから弁護士が判断します。まずは「何が起きているか」を確かめるところから始めてください。有効性や勝敗の見立ては、必ず弁護士に相談を。

Q. 誓約書があれば、必ず勝てるのでは?

そこは単純ではありません。競業避止の約束がどこまで効くかは、書面の文言だけでなく、その人の地位、制限の範囲・期間、代償の有無などを総合して判断されます。だからこそ、有効性を判断してもらうための「事実」を先にそろえることに意味があります。最終的な有効性の見立ては、弁護士の領域です。

Q. 調べていることは、相手にバレませんか?

調査は、対象に気づかれないように行うのが原則です。むしろバレやすいのは、社内で自前で探りを入れて、動きが表に出てしまうケース。まっとうな事務所は、依頼した事実そのものも含めて守秘を徹底します。だからこそ、外部の第三者に静かに託す意味があります。→ 探偵に依頼したら相手にバレる?

Q. どれくらいの期間がかかりますか?

対象の動きの読みやすさによります。接触のパターンがある程度読めれば短く済み、不規則で用心深いと日数がかさみます。まず「同業の実態確認」から入り、接触の事実確認へ広げる、と段階を分けることもできます。見積もりの段階で、目的と日数を相談してください。

Q. 相手はもう別の会社の社員として働いているようです。それでも調べられますか?

自分で会社を興した場合でも、競合他社に幹部・社員として入った場合でも、「同業に関与し、あなたの顧客に接触しているか」という事実を確かめる、という点は変わりません。形が違っても、押さえる事実の中身は同じです。

Q. 集めた報告書だけで、裁判に勝てますか?

報告書は、あくまで事実を固める土台です。それ一冊で勝敗が決まるわけではなく、集め方の適法性、事実の具体性、反復性で価値が変わります。そして、それを法的手続きでどう使うかは弁護士の判断です。探偵は事実を固め、弁護士が法で動かす——この分担を前提にしてください。→ 探偵の報告書は裁判の証拠になるか

Q. 逃げた元社員や、姿を消した相手の所在がわからないのですが。

相手の所在が掴めなければ、通知も請求も届きません。所在をたどる調査も、企業調査の一領域です。連絡が取れなくなった相手を追う考え方は 逃げた取引先・売掛金の相手を探す に整理してあります。

まとめ:怒りではなく、事実で外堀を埋める

裏切られた、という感情は、正当なものだ。信頼して要職を任せた相手が、こちらの手の内を使って顧客を奪っていく——腹が立って当然だし、その怒りを否定するつもりはない。

だが、その怒りのまま相手にぶつかっても、状況は良くならない。むしろ悪くなる。相手に警戒され、証拠は消え、下手をすれば、あなたが加害者の立場に立たされる。

だから、順番を守ってほしい。

  • 誓約書が効くかどうかは、書面だけでは決まらない。有効性の見立ては弁護士へ
  • まず掴むのは、同業の活動実態と、自社顧客への接触の事実
  • 証拠は、単発の「点」ではなく、時系列でつながった「線」で固める
  • 自分で追うと、気づかれ・違法に踏み込み・手の内を見せる危険がある。第三者に静かに託す
  • 掴んだあとの差止・損害賠償は、弁護士が組み立てる。あなたはその材料をそろえる側に回る

金庫から出したあの誓約書を、ただの紙で終わらせないために要るのは、怒りの勢いではなく、静かに積み上げた事実だ。まだ「調べると決めたわけじゃない」という段階でも、状況を整理するところから始められる。私たちは、あなたを急かす側ではなく、あなたが選んだ道を、事実で支える側に立ちます。

相談は、依頼を決めてからするものではなく、決めるために使っていただくものです。まずは、いま手元にある違和感を、言葉にするところから。

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*本記事は一般的な説明であり、個別の法的助言ではありません。競業避止義務の有効性や具体的な対応については、必ず弁護士にご相談ください。記事中の相談の情景は、特定の実在する個人・団体とは関係ありません。*

まずは、話を聞かせてください

「まだ、依頼するかどうかもわからない」——その段階で構いません。
決めてから相談するものではなく、決められないから相談していい場所です。

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急かしません。まず知ることが、いちばんの安心になります。それでも判断に迷うときは、無料で相談できます。

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